鍼灸のメカニズム

 

鍼灸のメカニズムの代表的なものの1つが、「内臓体表反射」というものです。これは、内臓に異常があると、その異常が神経系を通して、その内臓とつながりがある皮膚や筋肉に変化が現れるという説です。

例えば、「内臓知覚反射」は異常のある内臓と関連する皮膚の知覚が過敏になり、「しびれ」や「痛み」が現れます。

「内蔵運動反射」は、筋肉に反射して緊張や収縮を引き起こし、「しこり」や「こり」を作ります。

「内臓自律神経反射」は、内臓の異常が汗腺、皮脂腺、立毛筋などに影響が出て、皮膚がかさついたり、鳥肌が立ったり、しみが出たりします。

「内臓体表反射」は、多くの生理学者によって定説化されていますが、身体の内部と表面が神経反射によって密接につながっていることから、逆に身体の表面を刺激することによって内臓に影響を与えられるとする「体表内臓反射」が可能になります。

これが体表にある経穴を刺激する事によって、内臓の異常を正常化しようとする「鍼灸」の近代医学的説明です。

約四千年前に誕生したと言われる「鍼灸」は、臨床医学として発展してきました。

ある特定の部位を暖めたり押したりすると、痛みが止まったり、症状が収まったりした事柄の一つ一つの積み重ねが経穴(つぼ)を発見し、その経穴を刺激するうちに内臓と結ぶ経絡(けいらく)の存在を『気』の走行として、認識していったものと思われます。

鍼灸の、真の意味での治効理論は、『気』の解明抜きで語る事は出来ません。何故なら、鍼灸の基本理論は、『気』の偏在が病気を作り、その偏在を正し、『気』のバランスを整えることが病気を治すというものだからです。

『気』の存在は電気抵抗や遠赤外線の形で多少認識されていますが、その実態は解明されていません。微量の電気の様なものではないかと思いますが、「近代科学の方法」でいづれは解明されるのか、また別の「科学の方法」が必要なのか分かりません。

現在、日本の一般社会では、「気」はまだ身近的なものではないですが、日々臨床に携わる者にとっては、『気』は確かな存在です。

中国では、東洋医学の基本概念を陰陽五行論で完全に理論化する事によって、その治効理論を確立し、すべての鍼灸医が同じ土俵の上で臨床し検証出来るという羨ましい環境を造り上げています。

「中医学」と呼ばれるこの理論は、『気』はもとより、経絡や経穴は疑いようもなく厳然として存在しているものという前提に立った理論です。ですから日本の様に、『気』そのものの存在すら認められていない状態では、羨ましいと思いながらもなかなか浸透しにくい理論です。中国の歴史に根ざしたしっかりとした鍼灸医学への信頼が、この理論を可能にしているのです。

勿論、この理論は一つの方法論であって、完全無比なものではありません。問題点もあります。しかし個人の技の伝承に終始しがちな鍼灸界にあって、広く、多くの臨床を皆で検証できる数少ない方法には違いないのです。

中国における、国を挙げての臨床、検証が途切れることなく続けられてきた結果、東洋医学は西洋医学と比較して勝るとも劣らない医学であると認められています。

攻めの医学=西洋医学」と「守りの医学=東洋医学」を、患者さんの病状によって選択出来る中国のシステムは、少なくとも現時点においては医療の最も良い形だと思います。

その他、鍼灸のメカニズムの科学的考察は、「ストレス学説」「ゲ−トコントロ−ル説」など、 様々な学説によって説明されています。

しかし西洋医学を前提とした器質的疾患を扱った論文の方が多く、検査には異常がないのに疾患は確実に存在する機能的疾患については、臨床実験が難しい事もあり、現在の解剖学的な枠組みでは完全な解明には至っていないのが現状です。

絶対的、且つ根本的な解明は、鍼を刺す事によって起こる気や経絡や神経の複雑な相互作用の解明以外には無いと考えられます。

研究者ではない鍼灸師からすれば「実際に効くから効く」としか言いようが無いのが現状です。

ただ、4千年の長い歴史を淘汰されずに生き続ける東洋の医学に、西洋医学とは違う良さがあるのは事実です。

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