妊娠中の疾患

妊娠中のあらゆる疾患に対して、「鍼灸」は良い治療法だと思います。母体と赤ちゃんに副作用なく、安心して治療を受けられます。

産婦人科医で、鍼灸の臨床家でもあった石野信安先生は、多くの「三陰交」の臨床実験を行い、その素晴らしい効果について言及しました。

“三陰交”は、月経のトラブル、更年期、卵巣や子宮の疾患、不妊症、妊娠中の諸疾患等、あらゆる婦人科疾患に有効です。しかも、「自分でお灸」という安価で手軽な方法で、できるのです。

特に、「安産の灸」としての三陰交は是非、世界中の妊産婦の方に知って欲しいと思います。

当院では妊産婦の患者さん全員に、三陰交の「自分でお灸」を実践してもらっていますが、その成果を実感できます。

~風邪~

妊娠中には、あまり重症の風邪はひかないものです。消化がよくて、身体が温まるものを腹6分くらいに食べて安静にしていれば、普通の風邪なら3〜4日くらいで治るでしょう。

39度くらいの熱でも、赤ちゃんに影響することはないので心配いりません。解熱剤は飲まないで、少し様子を見ましょう。

但し、高熱が3日以上続く、吐く、水溶性の下痢、ひきつけ、意識障害など風邪とは別の症状がある時は、救急で病院へ行って下さい。

~妊娠中の風邪と長引く咳~

風邪は治ったのに、咳だけがいつまでも残ってしまう事があります。痰がらみの咳は、痰を出す為に必要で出ているので、無理に止めたりしないで下さい。喉や気管支の炎症が取れれば、自然に収まります。

それでも、この時期に気管支を傷めてしまうと、空咳がずーっと続く様になりますから気を付けて下さい。大声を出したり、果物やアイスが多いと咳はなかなか止まりません。長風呂も駄目です。

痰が出ない空咳は、一度出ると立て続けに出て、とても苦しいものです。腹圧がかかるので心配になります。長引く空咳には”咳止め”はあまり効きません。胸に温湿布をしてみて下さい。それでも続くようでしたら、「鍼灸」を勧めます。

半年も続くような咳も、意外に早く収まります。長引く咳は、鍼灸の最も適応する疾患のひとつです。

~腰痛~

妊娠中は体重が増えて、姿勢がそっくり返った形になり、腰への負担が大きくなります。

また、この時期には、靭帯などの保護組織を緩めるホルモンも分泌されている為、腰痛は起こりやすくなっています。鎮痛剤を使うわけにも行かず、治療は制限されます。

腰痛は「鍼灸」の得意分野です。副作用の心配をせずに、安心して治療することが出来ます。

しかし、妊娠中に腰痛になるのは辛いことです。妊娠を考えるなら、事前に腰のチェックをして治しておくと良いですね。

また、妊娠中はいつもより沢山歩いて下さい。安産と腰痛の予防になります。

~つわり~

妊娠初期に現れる症状で、半月から3ヶ月くらい続きます。においに敏感になり、むかつき、食欲不振、食べ物の好みの変化、唾液過多、頭重、微熱などが主なものです。

軽いものまで含めれば、妊婦の80%にみられ、初産婦に多い傾向があります。

4ヶ月に入れば、大体収まってきますから、あまり気にせず、なんとか胃に納まるものを食べていれば心配いりません。

「鍼灸」は、軽いものなら1〜2回の治療ですっきりします。重い場合には1週間に1回くらい、良くなるまで治療します。

しかし、非常に激しい吐き気や嘔吐が頻繁にみられ、体重の減少と脱水がある場合を、普通のいわゆる“つわり”と区別して「妊娠悪阻(にんしんおそ)」といいます。

「妊娠悪阻」は母体にも胎児にも生命にかかわる状態で、入院治療が必要です。

~逆子(さかご)~

逆子(骨盤位)の原因は子宮筋腫、双角子宮、前置胎盤、狭骨盤、羊水過多、羊水過少、赤ちゃんが小さめの場合などがありますが、大部分はこうした異常とはまったく無関係で、原因は分からない事が多い様です。

妊娠中期には、半数近くの赤ちゃんが逆子です。28週位になると、赤ちゃんの頭はどんどん大きく重くなるので、重力に従って自然に頭位になるのが一般的です。逆子のまま出産する人は全体の3~4%程度と言われています。

29週が過ぎても逆子だったら、付記してある「自分で逆子を治す」を実践してみて下さい。31週になっても尚、逆子が治らなかったら「鍼灸」を勧めます。

35週を過ぎてしまうと赤ちゃんが大きくなり、回転しにくくなります。遅くても34週目までには来院して下さい。特に問題が無ければ、1~2回で必ず回転します。

回転しないのは、逆子の原因が疾患としてはっきり診断されている場合、へその緒が絡まっている場合、既に骨盤内に胎児のお尻がはまっている場合などがあります。

胎児は普通、36週くらいに骨盤底に下がってきますが、頭が重くなる以前に下がって、頭を上にした状態のまま、骨盤内にしっかりとはまり込んでしまう場合があります。この場合には触って分かりますので、回転しないかもしれない事をお伝えします。しかし、はまり方が緩い場合は回転するので、治療してみる価値はあります。

もし、回転しなかったり、一度回転しても再度骨盤位に戻ってしまう場合は、何か頭を下にしたくない理由があるのではと思います。私の経験では、臍の緒がどこかに絡まっている場合が多く、無理をすべきではないと考えています。それで、当院では、逆子の治療は2回までとしています。

当院では、2回の治療で回転しなかった場合や、冷えが強く下腹部に張りがある場合には、逆子治療の継続と安産の為、“至陰”と”三陰交“に「自宅でお灸」をしてもらっています。

「自宅でお灸」の結果、36週過ぎて“頭位”になり、経膣自然分娩をした事例も少なからずあります。

なお、24週目くらいから“三陰交”の「自分でお灸」をしておくと、逆子になりにくいという報告があります。冷えが取れ、腹の張りも少なくなりますから効果はあると思います。

~自分で逆子を治す~

四つん這いの姿勢で、お尻を高く上げるポーズ(=胸膝位=)が、一番お腹が緩むので効果があります。

就寝時は側臥位のポーズで、胎児の背中が上に来る様にします。

どちらも無理はしない事です。おなかが緩んで気持ちが良いと感じる様に、少しずつ出来る範囲でして下さい。足元やおなかを冷やすと、おなかが張ります。張りが取れない時は、足湯が効果的です。汗が出るほどする必要はありません。

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