鍼灸と未病
「未病」とは鍼灸の概念の一つです。
既に症状が現れてしまっている「既病」に対して、体の中に病気の原因があるのに症状としてまだ現れていない状態を「未病」といいます。
西洋医学では検査し、異状を見つけ、病名を確定し、最適と思われる治療を選択します。病名確定は絶対条件ですから、病気になっている状態(既病)に対処します。
一方、「鍼灸」は、まだ症状が現れずに体の中にある状態(未病)に対しても、対処出来る場合があります。
700年頃に書かれた鍼灸の書「黄帝内経」の中で、「聖人は既病を治すのではなく、未病を治す」と記されているように、鍼灸は未病を治すことも重要視してきたのです。
「未病」をいかに治療するかで、ほとんどの人は大病にならずに生涯を全うできるはずです。
鍼灸の診断法は、脈、皮膚、匂い、声、筋肉など、病気に先立って身体の表面に表われる微妙な変化をとても重要視しています。そして、最も大切なポイントは脈と経穴(けいけつ=いわゆる“つぼ”の事)です。
経穴の反応によって、『気』の過不足、偏在、病邪気の侵入などを察知し、病気になる前に治療することが出来るとされています。
具体的には、「未病」の段階で、身体に現れる特殊な「緊張」「弛緩」「冷え」「熱感」を察知し、治療することで「既病」に至らせない様にするのです。
現代医学では、病名が決まらないときちんとした治療は出来ません。しかし、「検査数値は正常であっても、辛い症状がある」ということはあります。
東洋医学の目標の一つは、『気』の偏在を調え、病気の予防に主力を置いている点にあります。そして、何よりも安心なことは副作用が少ないということです。
そして「未病」の概念を知ることは、自分自身の健康を守る上にも重要なメッセージを送ってくれています。
私たちが病気になった時、治してくれるのは自然治癒力です。そして病気にならない様に守ってくれているのは、免疫の力です。
免疫は身体に入ってきた異物を手なずけたり、排除したりする働きをしています。自然治癒力は、免疫力と共に病気の為に生じた身体全体のゆがみを正しい状態に戻そうとする力です。
この二つの力を消耗させないことが、「未病」を知り、健康を維持する秘訣です。
先ず、第一には自分の身体を知ることです。それは自分がどんな遺伝子を受け継いできたかを知ることですが、両親や親族を見れば大体の見当はつきます。
そうしたら、今からでも遅くはありません。その体質に悪いことは、なるべく避ける様にします。例えば、糖尿の体質が有ったら食事に気をつけ、適度な運動をして過剰なエネルギーを溜め込まない様にします。
大切なのは、日常生活の中で無理なく実行できる様に組み立てることです。もし運動が無理ならば「食事を控える」、あるいは食べるのが大好きで腹八分は出来ないなら「タップリ運動する」などの様に…。
勿論、毎日そんな理想的な生活が出来る訳ではありませんが、私達の身体は意外にタフです。かなりの無理を修復してくれます。
問題はその限界を感じる事です。自分の身体の声に耳を傾けていれば、その限界点は分かります。
その時は、何を於いても休息を勧めます。健康でさえいれば、どんな難題にも立ち向かえるのですから・・・。